「傷が治る」というと簡単に聞こえるが,実はかなり複雑な現象が次々起こることで成立している。例えば,縫合された傷を例に取ると,かなり大雑把な説明だが、創面では次のような現象が起こっている。
1. 血管が破綻し出血しているため,血小板が集まり止血する。血管は収縮し,止血を助ける。 2. 同時に,血小板より血小板由来成長因子,上皮成長因子が放出される。 3. 収縮していた血管が拡張し毛細血管の透過性が亢進。白血球が組織内に遊走し細菌を殺す。 4. マクロファージが創内に進入し壊死組織などを除去。 5. マクロファージが各種成長因子を放出。(血管新生,線維芽細胞活性化,コラーゲン生成などを助ける) 6. 24~48時間で上皮細胞が創面を覆う 7. 線維芽細胞が,コラーゲン,基質などを生成。 8. 毛細血管が増殖
というように,さまざまな現象が次々起こっている。(皮膚欠損創ではこれよりさらに複雑になる)これらの現象は一連のものであり,これらが順序よく,整然とと起こることで傷は治るのだ。これらの現象の統合指揮をしているのが各種の「細胞成長因子」だ。
成長因子は主に,血小板とマクロファージが産生する蛋白質で,「血小板に作用する成長因子」,「上皮細胞に作用する成長因子」,「血管新性に作用する成長因子」・・・というようにターゲットとなる細胞ごとにある。
ここで面白いのは,低濃度の成長因子はターゲット細胞の遊走に作用し,高濃度の成長因子はその細胞の増殖を促す,ということだ。これは実に合理的といえる。
つまり,最初は成長因子は分泌されたばかりで低濃度なので,これがターゲット細胞の引き金を引き,次第に濃度が高くなると遊走先でそれらの細胞が増殖する,というわけだ。実にうまい仕組みである。
そして考えてみるとわかるが,この「低濃度から高濃度へ」という変化のためには,創が密封されていたほうが有利である。産生される成長因子がどんどん外に流れ出るようでは,いくら待っても「高濃度」にはならず,細胞は遊離するものの増殖への引き金が引かれないことになるからだ。
閉鎖された環境でこそ,コラーゲン産生も,上皮化も,血管新生もうまく進むのである。そして,ターゲットとなる細胞にとっても,体温により近い温度のほうが遊走にも増殖にも有利なことは常識的にもわかるだろうし,この温度保持が創傷被覆材による閉鎖でもたらされることは前述の通りである。